クライミングでムーブを教えるのは役に立つ? それとも逆効果?

クライミングを始めたばかりの人にとって、場所を問わず大きな壁となるのは、次のホールドへ移るためにどんな動きが必要かを事前に見極めることです。登らない人には大した問題に思えないかもしれません。でも、地面から数メートル上で「次はどこへ行けばいいの?!」と思った経験があれば、「どう登るかを先に知っていること」が登攀を大きく変えると分かるでしょう。

 

 

森の中で開いたガイドブックを持ち、前方を見て指し示す2人

EDELRID Martin Poetter

 

 

「ベータ」とは何か

 

クライミング用語では「ベータ」、冗談めかして言えば「遠隔操作のクライミング」です。つまり、たいていはビレイヤーが、難しい箇所を越えるための手足の動きの正確な順序を登る人に教える場面のことです。ベータ、méthode、ムーブの順序。地面から足が離れるたびに目の前に現れる、手がかりと足場の複雑なパズルの解き方には、言語ごとに呼び名があります。結局のところ、世界中のクライマーが同じ課題に向き合っているのです。上へ登る、という課題です。

 

 

フラッシュで登るとは?

 

話を広げすぎない範囲で言えば、ムーブについての助言の価値は、ルートを登り切るスタイルの違いからも分かります。オンサイトもフラッシュも、落下したりロープに体重を預けて休んだりせず、初めてのトライで登り切ることです。オンサイトではムーブを事前に知りません。フラッシュでは、動画を見たり、すでに試した人の話を聞いたりして情報を得ています。以前にそのルートを試したり練習したりしていれば、その後のクリーンな完登はロットプンクト(レッドポイント)と呼ばれます。

 

 

スポーツクライミングでは、クイックドローがすでに掛かっていること自体で、オンサイトとフラッシュの区別は変わりません。ただし、自分で掛けながら登ったかを記録するクライマーもいます。「ベータ」の範囲は人によって解釈が異なります。登っている最中に助言を受ければフラッシュだと考える人もいれば、なおオンサイトだと考える人もいます。自分の登攀を正確に伝えるには、どんな情報を持っていたかを説明するのがよいでしょう。

 

 

一度でも試したルートについては、もはやオンサイトやフラッシュとは呼びません。それでも、以前のトライの後に落ちずに登り切るロットプンクトと、完登に至らなかったトライや、その後の再登とは区別できます。技術的な定義だけでなく、そのルートや自分の登り方にどんな価値を見いだすかが、満足感を左右します。

 

 

ロープで確保され、明るい色の岩壁を登る紫色のシャツのクライマー

写真:Samuel Bié | SCARPA

 

 

下からの実況中継

 

オンサイトの反対側にあるのは、地上の誰かが一手ごとに指示を出して、クライマーを「遠隔操作」するような登攀です。岩場で長年の経験を積んでいない人が助けを求めるのは、ごく自然なことです。しかし、それがいつもの習慣になると、伸びないままの能力も出てきます。

 

 

私たちは皆この段階を経験し、そこから良いことも得てきました。たとえば、それがなければ届かなかったルートの終了点に達したこともあるでしょう。そこで、「ベータを教えてもらう」ことの長所と短所を考えてみます。

 

 

初心者が難しく感じること

 

初心者に共通する難しさの一つは、手がかり、そして何より足場を見つけられないことです。ホールドが見つかっても、次はそこへ届くための動きを考えなければなりません。だからこそ、よくある「その足場に足を上げて」という一言が、登っている人をいら立たせ、ビレイヤーへの不満につながりやすいのです。

 

 

足場を見落とすのは、先に登った人のシューズで黒くなった石灰岩のごく小さな突起に気付く感覚が、まだ身に付いていないからかもしれません。さらによくあるのは、ルートの途中で決め手となる手がかりを見つけられないことです。地上からは見えていたはずのチョークの跡を、途中ではすべて見渡せません。登り始めると地上で思い描いたルートの姿と違って見え、ホールド間の距離の見積もりが正確でなかったと気付くこともあります。

 

 

海の上にそびえる岩壁の支点で、ヘルメットとロープを装備した2人のクライマー

写真:Balharry | Patagonia

 

 

初心者にとっての利点

 

岩場での最初の一歩を踏み出し、途中で身動きが取れないと感じたとき、的確な一言が助けになることがあります。その内容以上に、安心させ励ましてくれる口調が大切な場合もあります。自分より先に誰かがそのルートを試す様子を見られれば、限界に近い一連の動きを別の方法で越える姿を想像し、ヒールフックやダイナミックな動き、ランジなど新しい解決法を試したくなるかもしれません。

 

 

初めて岩場へ行く頃には、ときどき助言を受けながら登ることで技術の幅が広がり、いくつかの動きが自然にできるようになり、後で磨いていける岩の感覚も得られます。クライミング講習で達成感を味わいやすいのにも理由があります。そばにいる指導者が、難所を最も無駄なく越える方法を示し、今は夢のように感じる成果も自分の力で得られると気付かせてくれるのです。

 

 

最後に、今日そのルートに挑む動機が、どんな方法でもとにかく登り切りたいというものなら――常に美しく登るべきか、上達だけを目指すべきかといった議論はさておき――誰かにムーブを教えてもらうことが目標達成の助けになります。

 

 

 

技術面での短所

 

いつも誰かにムーブを指示されて登っていると、ほかの方法では登れなくなるかもしれません。自分から何も工夫しなくてよい状況に慣れてしまうからです。岩を読む力はなかなか伸びず、ジムのマットから課題を眺めてムーブを想像する力さえ育ちにくくなります。

 

 

「どちらの足から始めるの?」「このホールドはどちらの手で取るの?」と、何度尋ねたことでしょう。いつも用意された答えを受け取ると、クライマーとしての成長や戦略を考える力が制限され、記事でもよく取り上げるあの「経験」を積む機会も失われます。

 

 

また、一緒に登る人がいつも自分と同じ体格とは限りません。それだけでも、腕の長さが自分の倍ある人向けに見える動きができずにいら立つより、自分の直感で試して失敗するほうを選ぶ理由になります。

 

 

クライミングイベントで上方に身振りを示す3人の観客を写した白黒写真

FASI Federclimb Media Gallery

 

 

試すことの大切さ

 

トレーニング書The Climbing Bibleも指摘するように、オンライン動画でルートを事前に調べる習慣が広まったのは、ここ数十年のことです。この本は2022年にMulatero EditoreからLa Bibbia dell'arrampicataの題名でイタリア語版が出版されています。動画による予習は高いレベルのクライマーに多く見られます。易しいルートや中級ルートの動画は、オンラインでは比較的少ないからです。ムーブを前もって見ることは役立ちますが、自分で手順を探す経験とは異なります。

 

 

この傾向によって、事前情報なしでルートを試す際の探索、発見、実験よりも、「最終的な」完登を重視する取り組み方が強まってきました。

 

 

メンタルトレーニング

 

ここまで見てきたのは、オンサイトやフラッシュに挑む回数、逐一助言を受けるかどうか、あるいは何度もトライを重ねるかによって生じる、無数の可能性のほんの一部です。さらに詳しく知りたい方は、イタリア語の書籍セレクションにある数多くのクライミング書籍をご覧ください。

 

 

Jollypower Vol.1(イタリア語版)には、メンタルトレーニングについて詳しく論じた章があります。たとえばオンサイトだけで登る場合など、一つの方法だけを続けるときの限界と利点も扱っています。詳しくはイタリア語のカタログでおすすめの本をご覧ください。

 

 

表紙写真:Tristan Hobson | SCARPA

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